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第14話 Go ahead

Penulis: あるて
last update Terakhir Diperbarui: 2025-12-17 21:34:43

 その後はなにもなく家に帰り、自分の部屋用に購入したノートパソコンを開いて昨日撮っておいた動画を投稿するついでに今の登録者数を確認。

 14586人。 なんだ、数百人増えただけか……って違うがな!桁が増えてるんだよ!とノリ突っ込みを入れながらちゃんと数字を確認する。わたしが見ている間にも数人増えた。これも気合を入れてかわいい分身を作ってくれたキリママのおかげだね。まずはキリママに1万人突破と感謝のメッセージ。

 1万人突破記念の曲は用意してあったけどこんなに早く使うことになろうとは……とにかくさっそく記念配信の予約を入れて、SNSにも感謝のメッセージと配信のお知らせを投稿。

 メッセージもたくさん来ていて、キャラがかわいいって投稿もやっぱり多かった。

 再度キリママに感謝。

 他にも地声もかわいいとかいろんな誉め言葉が並んでいたけどその中でもわたしの歌とダンスがとても心に響いたという感想が一番多くて、それがなによりも嬉しかった。

 わたしの伝えたい思いが少しでも聴く人に伝わるならこれからも頑張っていける!感謝の言葉をSNSに投稿しようかとも思ったけど、それは自分の言葉で直接伝えたくて記念配信をぜひ見に来てくださいとだけ投稿しておいた。

 その日の晩御飯は少しだけ豪華にして、登録者が1万人を突破したことを伝えたらみんなで祝福してくれた。

 リスナーの反響も嬉しいけど、わたしのことを一番理解してくれている家族からの祝福と応援が一番心を温かくしてくれる。

 家事を全部終わらせていよいよ配信の時間。

 最初の配信の時の緊張と違って、今回はリスナーのみんなに感謝の言葉を伝えたいという思いと喜びを分かち合いたいという思いが合わさり始まりの時間が待ち遠しくて仕方ない。

 配信が始まるなり、前置きのあいさつもなく喜びを爆発させてしまった。

「みんなのおかげでいきなり登録者1万人突破しましたー!ほんとうにみんなありがとうね!」

【いきなりだなw】【よっぽど嬉しかったんだなw】【1万人突破おめー!】というコメントが並び、名乗りもせずにいきなり本題から切り出してしまった事を思い出して軌道修正。

「嬉しすぎて最初の挨拶忘れてた!ごめんなさい!雪の精霊YUKIが今日もみんなに歌声を届けるよー!」

 ほとんどがおめでとうのコメントであふれていたけど、その中に【今日は報告だけかと思ったのにちゃんと歌うんだ】【投稿もあったし一日に2曲も聴けるとかラッキー】というコメントを発見。

 それだけわたしの歌声が楽しみにされていることを実感して嬉しさで思わず泣いてしまいそうになる。と思ってたら【日向キリ:わたしは嬉し涙でコメントが良く見えません】もう先に泣いている人がいて笑ってしまった。

 他のリスナーからも【感極まってますな】【ほんまのママみたいや】とキリママの過保護ぶりがいじられる。Vtuberとしてのわたしの誕生から成長まで本気で応援してくれているのがありがたいし、まるで本当のママみたいだというコメントにこんなママもいいな、なんて嬉しい気持ちになってしまう。

「キリママありがとう!またちゃんとお礼も言いたいし連絡するね」

 わたしと直で話せるし、その気になれば会うこともできるキリママにはうらやましいとの声がたくさん出ていたけど、わたしも早くリスナーのみんなに会いたい!

「みんなにもあと2年もたたないうちにちゃんと素顔見せるから今は我慢してね。じゃ、さっそくこの高いテンションのまま歌の方に行こうかな!1万人突破したら歌おうと前から作ってあった曲です!『Go Ahead』聴いてください!」

 Go Ahead。船を進める時にかける「前へ進め!」の合図。1万人はまだまだ通過点の一歩でしかないわたしにとっては今歌う曲としてはこれ以上のものはないと思う。

【1万人突破したばかりでさらに前へ進めか】【YUKIちゃんらしい】【どこまで行くのか楽しみ】そんな温かく見守ってくれるリスナーたちに向けてまだまだ進み続ける決意を歌声に乗せて画面の向こう側へとどくようさらに声を張り上げた。

「はりきってる」

 自分の部屋のベッドで横になりながら茜は愛する弟の歌声に耳を傾けていた。いつも無表情と言われているが、この時間だけは頬も緩んでいる。

 記念曲らしくハイテンポでダンスも激しめ。ここからがわたしの始まりだと宣言するかのような力強い歌詞と声。ハイトーンの伸びも尋常ではないほどで狭い部屋で聴かされたらうるさいだろうほど。

 ゆきの歌全部に共通して言えることだけど、全身全霊で歌っていることがよく伝わってくる。でも今日は特に気合が入ってるようだ。

 1万人をこの短期間で突破したことは十分すごいことなのに、それでもまだまだ満足することなく上へと駆け上がっていくぞという決意が伝わってくる。

 このまま歌声で人を引き付けて行けば今のままでもVtuberの中でもトップクラスの人気者になれるだろう。

 そんな歌唱力を持ったゆきがあの素顔を世間にさらしたらどうなるのか。雪なら本当に伝説を作れるかもしれない。いや、身内びいきかもしれないがきっと作るだろうと信じている。

 ピーノちゃんとしてのゆきのことはわたしも子供の頃から知っていたけど、家族になったのはゆきがもう芸能界を引退した後だったのでどうして引退したのかは知らない。

 これから配信者として人気が出たら芸能界に戻るのかな。かつての神童子役がまた歌で大活躍なんてしていたら芸能界が放っておくはずもないし、デビューしたら人気者になるのは間違いないからきっと忙しくなるだろう。

 わたしと過ごす時間も減ってしまうに違いない。

 寂しさはあるけど、それがゆきの望む道ならわたしは全力でそれを応援するだけだ。ゆきはよくわたし達の笑顔が自分の幸せだと言っているけど、それはこちらも同じことで愛する弟が幸せそうにしている姿を見れば満たされた気分になる。

「そのまま昇っていけ、ゆき」

 弟を抱きしめるかのようにそっとスマホを抱きしめて茜はそう祈った。

「あーやっぱりゆきちゃんは声も何もかもがかわいいです~!」

 そして隣の部屋では楓乃子も悶えていた。

「今日の歌は少しかっこいい感じでしたね。ほんときれいとか美しいだけじゃなくかっこいいや凛々しいといった賛辞でさえすべてゆきちゃんのためにあるようなものです!」

 ゆきの声を良い環境で聴きたいとお小遣いをはたいて買った高品質のヘッドホンに手を当て、スマホに映る雪の姿を見ながらうっとりしているさまはさながらゆき教信者にも見えるほど。

 楓乃子はピーノちゃんの時代からゆきの大ファンだった。家族になれたときは嬉しさのあまり気を失いそうになったほど好きでたまらない。

 法的にも義理の姉弟は結婚できるということも調べ上げて虎視眈々とゆきの心を射止めようと狙っているうえに、そのことを隠そうともしない。

 さすがに本人へのアプローチはまだしていないが弟にガチ恋していることを公言している。

 妹の茜も同じ気持ちを抱いていることにも気づいているが姉だからと譲る気なんて毛頭なく、実の妹もれっきとした恋のライバル。

「それにしても1週間ほどで1万人ですか……。さすがゆきちゃんです!それでもまだ遅いくらいだと思いますけど。ゆきちゃんなら1か月で100万人くらいいっても全然不思議じゃありませんわ。ずば抜けた才能を持った天才ですけど、人並外れた努力も重ねられる子ですもの。ピーノちゃんの頃も神童と呼ばれてましたけど、努力を積んだ今では並ぶもののない天才と言っても過言ではありません」

 実際に雪が今まで重ねてきた努力の量は半端なものじゃない。

 元々天才ゆえに物覚えが並外れて良いことに加えて、いつ息を抜いているのかと思うほど常に何かを吸収しようと努力している姿を間近で見てきたのだ。

 習い事や通信教育なども行っていたが、なにより読書量が尋常じゃなかった。図書館でいろんなジャンルの本を借りてきては2日ほどで読み終えてしまいまた同じような量を借りてくるのを繰り返している。

 頭の中に一体どれだけの知識量が蓄えられているのかと思ってしまう。それに加えて身体能力の高さ。特定のスポーツはアメリカでやっていたストリードバスケだけだが、ただでさえ呑み込みが早いのにそれについていけるだけの運動神経をもっているので習得の速さと熟練度がとてつもない。

 柔道、合気道、たまたま近所でやっていた古流武術もあっという間に上達してしまい同年代では相手にならず大人の中で混じって稽古をしていたくらいなので、アメリカの柔道場に通ったときは文字通りの敵なし状態だった。

 神様が人類を生み出して以来コツコツと作り続けてきた最高傑作を現代の世に送り出したのがゆきだと楓乃子は半ば本気で信じている。

 普通の人間ならこれだけのギフトを授けられたら多少なりとも天狗になる面も出てくるだろうけれど、ゆきに限ってはそんなことも全くなくて謙虚で素直で明るく誰にでも優しい。

 神様が遣わしたとしか説明がつかないほどの非の打ちどころのなさは本人がいつも言っている雪の精霊という言葉に信ぴょう性すら与えてしまっている。

「ゆきちゃんのことはいつもわたしが見守っていますからね」

 そうつぶやきながらスマホに映る最愛の弟のことを恍惚の目で見つめていた。

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